『学校づくり』ラボ【3】レジデンシャルカレッジの可能性

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2018年12月20日 text by:久保田 真理

『学校づくり』ラボ【3】レジデンシャルカレッジの可能性

まちづくり企業『UDS』が主催するビジネスデザインスクール「LABO@LEAGUE」。その第4期講座の『学校づくり』ラボ 第3回目が11月21日に開催されました。「レジデンシャルカレッジの可能性」と題して、一般社団法人HLAB代表理事・小林亮介さんが「住環境」を学びの中心とする教育事業への熱い思いを紹介。新しい教育の選択肢としての可能性を大いに感じることができました。

(1)世界の潮流は、学びの中心を「住環境」に置き始めている

小林亮介さんが代表理事を務める『一般社団法人HLAB』(エイチ・ラボ、以下HLAB)は、国境や世代を越えた多様な出会いと交流から学ぶ、リベラル・アーツ教育を提供する社団法人です。

ハーバード大学で素晴らしい寮生活を経験した小林さん。他にも、世界7都市のキャンパスを移動しながら学ぶという全寮制の大学「ミネルバ大学」が、2014年に開校したばかりなのにもかかわらず、世界で最も入りにくい大学として注目を浴びていることを紹介。自身の経験も踏まえ、世界の潮流は、学びの中心を住環境に置き始めている、といいます。

HLABは、「住環境こそ最大の学びの場」をコンセプトに、身近なロールモデルや同級生と寝食をともにする「教育寮」を新しい教育の環境として展開しています。その話を詳しく伺いました。



世界で最も入りにくい大学「ミネルバ大学」も全寮制・オンライン授業


(2) あたらしい教育を提供する「HLAB」とは?

HLABは、世界中から集まった学生たちが1週間の合宿で寝食をともにしながら学び合う「サマースクール」や、世代や国境を越えた学生が共生する寮「レジデンシャル・カレッジ」を運営し、新たな教育を提供することで今注目を浴びている社団法人です。

インターネット上で安価に授業が受けられるMOOCs (Massive Open Online Courses) などの登場により、大学での教育が今大きく変わろうとしています。世界中の誰もが等しく教育にアクセスできる流れが起きているのです。
そこで改めて問われるのは、わざわざ大学で学ぶ意味です。

「何かを学ぶためには、まだ知らない世界と出会う必要がありますが、
 それは偶然によってもたらされます。それをもたらすのは、
 大学の教授やともに学ぶ学生、また先輩やOBたちです」と小林さん。

大学では「寮」が、このような人からの学びを偶然もたらす場としての役割を担うようになってきました。


例えば、アメリカのハーバード大学では、2015年に「多様な住環境の提供」をミッションのひとつに掲げ、偶然の出会いを創出する場づくりを行っています。

高校2年から1年間アメリカに留学し、一橋大学に入学してから半年後にハーバード大学に転学した小林さんは、多様性のある寮生活でリベラル・アーツを学ぶ素晴らしさについて身をもって体験。この教育環境を日本で実現させようと考えました。

(3)アメリカでの体験後、ピアメンターシップの機会の創出へ

小林さんは高校生の時、海外留学を悩んでいた時期がありました。そんな時、アメリカ・シアトルへ留学した一つ年上の先輩が帰国し、自分と同じクラスの同級生に。

「留学体験について聞いたところ、『すごく、楽しかった!』と即答。
 その一言で、悩みや不安は消え、留学することを決断できました。
 身近な人からケースや具体的な話を聞いて、
 自分にも出来るんじゃないか、と思えるのが大事」と小林さん。

そして、一橋大学に進学するも、社会学を学ぶならアメリカの大学に進学する方がよいと教授にアドバイスされ、ハーバード大学に転学。そこでは、寮生活を中心とした、素晴らしい学びの環境が待ち受けていました。

ハーバード大学では、約150人が暮らせる寮が7つあり、自分の部屋に行くにも、図書館に行くにも、「食堂」を通る設計になっていました。24時間使用可能なドリンクバーもあり、自然とそこに学生が居ついて一緒に食事をするようになるそうです。

ハーバード大の寮生活の結果、数学専攻とコンピューター・サイセンス専攻の学生が悪ふざけでソフトウェアを作って「Facebook」が誕生したり、元々ルームメイト同士だったの監督と音楽ディレクターが一緒に映画『ラ・ラ・ランド』を制作したり、と偶然の出会いが世界的なサービスやクリエイティブを生み出すまでになっています。

ハーバード大学は、人生を楽しむために学び続ける「リベラル・アーツ」という教育手法を実現させようと、そのために必要な所作を身につける偶発的な出会いと会話を計画的に作り出しているのです。

「進路や将来の選択肢は、周囲の環境によって自然と決められる」

小林さんは、これまでの経験を振り返り、そう感じたといいます。

そこで、人生の転機に必要な決断をするためには、自分を投影できる身近なロールモデルの存在と、4つのステップが必要だと主張しています。

お互いが身近なロールモデルとなり、集い語り合う「ピア・メンターシップ」の機会を、多様性のある住環境を通じて創出すること。

そして、この学び合いのなかで、目指す方向性を思い描くこと(発想)、決断の材料となる情報を収集すること(情報)、選択した進路を追求することに全力を傾けること(やる気)の3つを「サマースクール」や「レジデンシャル・カレッジ」で提供し、また、4つめの進路を実現させるリソースを確保すること(手段)として、奨学金制度まで調えました。

(4)グッドデザイン賞も受賞!HLABのサマースクール

HLABのサマースクールは2011年にスタート。高校生が約1週間、国内外の大学生と寝食をともにします。

そこでは、多種多様な学問分野を掘り下げるセミナーや、様々な分野で活躍する人たちの講演会のほか、メンターとのざっくばらんな対話やワークショップを通じた体験型の学びの場など、刺激的な時間を過ごすプログラムに参加することができます。

毎年約240人の高校生が参加するのに対し、メンターとなる大学生は85の大学から約200人が参加。これまでに8年継続して行い、2000人を超える卒業生を輩出してきました。今では東京、長野、徳島、宮城の4か所に広がり、自治体とも連携しながら地域活性化にも貢献しています。

参加する大学生、講師陣の顔ぶれは幅広く、芸術系の大学生やプロのダンサー、スポーツ選手、そして、アジア、アメリカ、ヨーロッパからも参加し、毎年ネットワークが広がっているそうです。

「一緒にご飯を食べる行為は、自然と人と人の距離を縮め、仲良くなることができます。この関係性を高校生と大学生との間で築けると、その後に大学生と社会人になって、今度は進路相談から就職相談をすることが可能に。双方向の関係性が、ピアメンターシップなのです」と小林さん。

実はこのプログラムでは、高校生だけでなく、大学生もまた参加費を払っています。それは、自分が受けた経験を今度は年下の人たちに返していきたい気持ちが生まれるからだそう。

これにより、高校生の参加費は手の届きやすい金額となります。同時に、高校や大学が抱えているOBOGが母校にコミットしてくれないという問題も解決。HLABでは自然に、大学生がHLABに戻ってきて、次の世代にコミットする現象が起きています。

HLABのサマースクールのモデルは、2016年にグッドデザイン賞を受賞しています。

(5)新たな挑戦、レジデンシャル・カレッジ

THE HOUSE by HLAB (中目黒)

 

サマースクールを継続するなかで、このピアメンターシップの機会を日常的に生み出す方法として始まったのが、「レジデンシャル・カレッジ」です。

2016年10月、大学生・高校生と社会人が集う寮として東京・中目黒にオープンしました。

3階建ての寮の1階はコーヒー店、2階は24時間いつでも使えるジムを完備、3階には9部屋の個室と、住人が多くの時間を過ごすコモンルームと呼ばれるリビングを備えています。学生は2段ベッドを使用し、2人で1部屋をシェアしているそうです。



一緒に暮らすことの重要性について、小林さんはこう話します。

「一緒に食事をするだけでも、指数関数的に人と会話をする時間が増えます。点から線に時間が増えれば学びの機会も増えて、人生を変える会話が1度でも起これば成功なんです。それを、レジデンシャル・カレッジでは設計しているのです」

住環境が「学び」の場に <レジデンシャル・カレッジ>
出典元:https://h-lab.co/residential-college/

 

都内にある大学でも学生寮が多く作られていますが、建物を作ってもコミュニティが作られないという悩みを大学側から聞くそうです。現在、都内学部生は50万人、首都圏には110万人、そのうち1人暮らしは51%を占めており、都内の大学生・高校生はしばらく減らないというデータがあります。

「アメリカやイギリスのようにキャンパスにすべての機能を集めて、新しい教育をつくるのにはお金がかかります。
そこで、イノベーションのためにはどこかを捨てる。
私たちは教師や校舎などの教育を捨てて、学生寮を営む意味があると判断しました」

(6)UDSとHLABの協働の「寮」事業へ

左: 管理栄養士のメニューを提供するRelax食堂で学生・地域と交流/右:寮内で学びのワークショップも

NODE GROWTH 湘南台
左: 管理栄養士のメニューを提供するRelax食堂で学生・地域と交流/右:寮内で学びのワークショップも

 

 

2018年3月には、大型レジデンシャル・カレッジ(教育寮)の第一弾として、神奈川県藤沢市の小田急線「湘南台駅前」に、学生寮「NODE GROWTH 湘南台」(ノード グロース ショウナンダイ)が新築オープンしました。

UDSが建築・企画・設計・食堂を担当し、HLABが「多様な学生が集う知的刺激にあふれる空間/教育プログラム」の知見を活かし、その寮をどう「学びの場」にするのかソフト面を担当。
地域に開かれた学生寮を目指し、学生が主体的に寮生活を運営するほか、1階には住人以外が利用できるカフェを併設して、まちとのつながりを持てるようにしています。

UDSとHLABは、新たな教育環境を提供する「学生寮」事業の共同展開を始めました。
そして、来年に向けて、さらなる新プロジェクトも動いているそうです。
詳細は、2019年にはリリース予定。今後の動きに注目です。

 

<関連情報>

一般社団法人HLAB
https://h-lab.co/

UDS株式会社
https://www.uds-net.co.jp/



LABO@LEAGUE 『学校づくり』ラボ
(2018年10月24日〜2018年12月6日 全4回開催)

ライター 久保田真理

フリーランスライター&フォトグラファー&ワークショップデザイナー。
UZUZU[ウズウズ]で、取材インタビュー記事なども担当しています。

ライター 久保田真理

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